2023年度のばんえい競馬を代表する馬は? 部門別の選考で最も白熱した議論が交わされたのが、このべストホースと、後述する最優秀5歳以上馬。名勝負を繰り広げてきたメムロボブサップとメジロゴーリキの戦績の比較は例年以上に優劣の判断がつけにくく、最終的には「2頭ともに表彰するに値する活躍」との結論で、ベストホースには1年を通して活躍を見せたメムロボブサップが輝いた。21年度、22年度に続いて、ベストホースV3となる。
23年シーズンは初戦のスプリングカップ(オープン)を勝ち、2戦目のばんえい十勝オッズパーク杯は敗れたが、その後北斗賞、旭川記念、ばんえいグランプリの3重賞を含めて6連勝をマーク。シーズン合計15戦10勝の成績を残した。メジロゴーリキとのBG1での頂上対決は、重量1トンのばんえい記念では直前の降雪により馬場が軽くなり、適性の差もあり6秒1離されての2着だったが、帯広記念は相手より30㎏重い930㎏を曳きながら3秒差、底力を見せての2着だった。シーズン10勝は群を抜いた数字で、ファン投票では2位のメジロゴーリキに600票超の差をつけての〝圧勝〟だった。
メジロゴーリキ、アアモンドグンシンなど、ここ数年にわたり好勝負を繰り広げてきたライバルが、23年度シーズンをもって引退した。新年度も王者として受けて立つ立場にあり、また現役最多記録となっている通算重賞16勝の更新も期待される。
父 | (半血)ナリタボブサップ | 父父 | (半血)華 旭 |
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父母 | (半血)龍 姫 | ||
母 | (日輓)ピュアレディ | 母父 | (半血)アキバオーショウ |
母母 | (半血)竹四顕姫 |
2023年度デビューの2歳馬の戦いは、世代4重賞のうち3重賞を制したライジンサンが、満場一致で最優秀馬に選定された。
勢い十分の著しい成長を見せた。シーズン後半の11月から5連勝、12月から重賞3連勝でフィニッシュ。翔雲賞はただ1頭、他馬より10㎏重いハンデを背負って勝ち、定量のイレネー記念は完勝だった。大河原師はヤングチャンピオンシップが厩舎開業6年目での重賞初制覇となり、一気にBG1制覇まで昇り詰めた。
父 | (日輓)テルシゲ | 父父 | (半血)ウンカイ |
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父母 | (半血)晏春姫 | ||
母 | (日輓)カツラデラックス | 母父 | (日輓)コーネル |
母母 | (日輓)ホウエイウイン |
ばんえい大賞典&菊花賞の二冠馬マルホンリョウユウと、BG1ばんえいダービーを制したタカラキングダムが候補に挙がり、選定委員会でも支持はほぼ半数ずつに分かれた。収得賞金では前者が世代2位、後者が同4位。最終的には年間通しての活躍を評価し、ばんえいダービーでも3着しコンスタントに成績を挙げたマルホンリョウユウが選ばれた。
2歳時はデビュー戦から4連勝し将来を期待された馬。翔雲賞、前シーズンはイレネー記念とも2着に終わり重賞タイトルに届かず、ばんえい大賞典は待望の重賞初制覇となった。
父 | (日輓)アローファイター | 父父 | (ペル系)コガネサクセス |
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父母 | (半血)宝富士 | ||
母 | (半血)良 姫 | 母父 | (ベル系)イナリテンリュウ |
母母 | (半血)第二音姫 |
重賞勝利数が2歳時3勝、3歳時2勝に続き、4歳シーズンは世代三冠制覇を達成した。年度収得賞金最多、シーズン8勝も最多タイと、世代トップホースにふさわしい活躍で満場一致で選定された。3年連続で各部門で最多収得賞金を獲得している世代最強馬だ。
第二障害を降りてからの力強い末脚は、迫力十分。24年は、古馬年長馬のトップホースが待つ重賞戦線にも本格的に参戦することになる。重賞タイトルは8個、今後は重量(ハンデ)との闘いも避けられないが、重賞通算2ケタ、4シーズン連続勝利などの記録もかかる。
父 | (半血)カネサブラック | 父父 | (半血)カネサスピード |
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父母 | (半血)カネサウイン | ||
母 | (日輓)クインフェスタ | 母父 | (半血)ホクリュウイチ |
母母 | (半血)クインフェアー |
最上級グレードのBG1を2勝したメジロゴーリキ。帯広記念は2年連続(21、22年度)2着の悔しさを晴らすV、ラストランのばんえい記念は21年度に続く2度目の制覇となった。年間通しての勝利はこの2レースだけだが、年間収得賞金でも1位の活躍だった。
通常なら、部門別最優秀馬の中からベストホースが選定されるが、23年度はメムロボブサップがベストホースとなり名誉を分け合う形になった。これも、メジロゴーリキの足跡の1ページとして残ることだろう。2016年シーズンからばんえい界を引っ張ってきたメジロゴーリキは、今春から種牡馬として新たな道に進んでいる。
父 | (半血)ニシキダイジン | 父父 | (半血)カゲイサム |
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父母 | (ベルジ)ローラ | ||
母 | (日輓)メジロルビー | 母父 | (半血)メジロショウリ |
母母 | (半血)シスタークイン |
BG3のドリームエイジカップを勝ったサクラヒメが受賞した。レースでは牝馬ただ1頭の出走で、メジロゴーリキやキングフェスタなど牡馬の一線級を相手にして、2着メジロゴーリキに7秒9差をつける完勝だった。
選定委員会では、BG1ヒロインズカップを含む牝馬重賞2勝のダイヤカツヒメ、黒ユリ賞を勝ったスマイルカナを推す声もあった。サクラヒメはヒロインズカップ(3着)では他馬より重いハンデを背負っていた点が考慮され、牡馬相手の実績が評価された。
父 | (半血)キタノイチオク | 父父 | (半血)ダイヤテンリユウ |
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父母 | (半血)松 姫 | ||
母 | (日輓)桜 子 | 母父 | (半血)ヤエノテンリュウ |
母母 | (半血)桜 栄 |
Photo.山岸伸
196勝を挙げ2年連続14度目のリーディングに輝いた鈴木騎手が、ファン投票でも2位今井騎手の2倍近い票を集め文句なしの受賞となった。
特筆すべきは、重賞勝ち鞍。年間27重賞のうち、11レースを制し、「ミスターばんえい」と呼ばれたレジェンド金山明彦氏(現調教師)が1980年度にマークした年間重賞勝利記録(10勝)を塗り替えた。大舞台で強く、正月開催の帯広記念、天馬賞でBG1を連勝、最後もイレネー記念、ばんえい記念のBG1を2日連続で制しシーズンを締めくくった。円熟味を増した技術と衰えないパワーから、まだまだ主役の座は明け渡さない。
1着回数で争う2023年度リーディング騎手は、鈴木恵介騎手が2年連続で通算14度目の1位に君臨。20、21年と阿部騎手に首位を奪われたが、奪回し再び連続記録を伸ばし続ける勢いだ。ベストジョッキー欄でも触れているが、年間重賞勝利も歴代最多となる11勝を達成。通算重賞勝利も99勝と大台に、あと1勝としている。
2~5位では、前年5位の西将太騎手が135勝を挙げ2位に躍進。前年3位だった島津新騎手は23年度も134勝を挙げトップ3の座を保持した。西将、島津、5位の赤塚健仁騎手は同じ2011年デビュー、4位渡来心路騎手は2010年デビューで世代の近いジョッキーたちが競い合いながら、競馬を盛り上げてくれそうだ。
1位 鈴木恵介
2023年度成績
1097戦196勝
2位 西将太
2023年度成績
1106戦135勝
3位 島津新
2023年度成績
1041戦134勝
4位 渡来心路
2023年度成績
899戦120勝
5位 赤塚健仁
2023年度成績
1103戦119勝
Photo.山岸伸
Photo.Yuka Nakajima
勝利数、収得賞金、重賞勝ち馬頭数など、どこに視点を置くか。選考委員会でも様々な意見が出たが、23年度は、母娘で切り盛りする家族経営の小さな牧場が挙げた、きらりと光る記録に注目した。
道東弟子屈町の守屋博牧場は、生産馬の年間出走回数が143回ながら、33勝を挙げた。勝率は23.1%と、10%台が大半のなかで群を抜いて高い。クリスタルコルドがポプラ賞勝ちをはじめ5勝、ツガルノヒロイモノは年間8勝を挙げ、天馬賞2着もある。ほかチャチャクイーンも5勝を挙げた。ばんばの生産を始めた守屋博さんは21年に他界し、妻弘子さんと娘の直美さんが継いでいる。生産馬の活躍には、競馬の夢、楽しさが詰まっていた。
年間1位の128勝を挙げた金田勇師が、開業21年目で初のリーディングを獲得した。管理馬では、古馬のアオノブラックが重賞3勝を挙げるなど一線で活躍している。そこに3歳マルホンリョウユウが二冠を制するなど次代のスターも育ち、厩舎としての年間収得賞金もトップの1億429万1,000円だった。出走回数973回、勝率13.2%はともに2番目の数字で、シーズンを通して管理馬を良い状態で送り出してきたからこそ残せた数字といえるだろう。
1月4日には、調教師として史上14人目、現役11人目となる1500勝を達成した。節目の記録達成に、タイトルが加わるシーズンになった。
現役2人目の女性ジョッキーとして2022年にデビュー。2年目シーズンは91勝を挙げリーディング11位とさらに飛躍した。1~12月の暦年が表彰対象とされる「NARグランプリ2023」では優秀女性騎手賞を受賞した。23年11月6日に達成した通算100勝はデビューから332日目の記録で、帯広市単独開催となった2006年度以降の従来の記録395日目を更新する最速。今アワードでは前年22年に新人で44勝を挙げ特別賞を受賞しているが、選定委員会で満場一致で2年連続受賞が決まった。