過去最多総数の23957票が寄せられたファン投票は、メムロボブサップが3883勝で４年連続１位に輝いた。２歳ナナカマド賞から始まり8歳の今季もばんえい十勝オッズパーク杯で通算重賞17勝目。18年ぶり３歳３冠、４歳時にも世代3重賞制覇など長くトップに君臨する。ばんえいＧＰではアサギリ（1991～94年）が持つ最多連勝記録４連覇に挑む。 産まれたのは、芽室町で畑作と牧草、ばんえい馬生産を営む竹澤農場。牧場時代は馬体が小さくて買い手がつかず、場主の竹澤一彦さんが自ら馬主として所有した話は、よく知られることとなった。「誰もここまでの馬になるとは思わなかった。それが、競馬場で調教をしたら瞬発力が凄かった」。 昨季まで重賞通算16勝を積み上げた。歴代最多記録はオレノココロの25勝。竹澤さんは「10歳まであと３年、３勝ずつすれば25勝。今年１つ取ったので、どこかの年で４勝できればうれしいね」と記録更新も目標にある。

―ファン投票４年連続１位。今季もばんえい十勝オッズパーク杯で重賞通算17勝目を挙げました。

竹澤さんオッズパーク杯は４回目の出走でようやく勝てた。重点的に狙おうと決めていたレースでした。過去、後脚、右と左を出し間違えてずっこけたことがあるんです。荷物が軽いと遊んじゃう面があって、それから練習でも重量を重めにしたようです。面白い馬だよね。

―ばんえいアワード２０２３では年間ベストホースにも選ばれました。

竹澤さんシーズン最後のばんえい記念（２着）は、（レース１時間前に降った）あの雪には参った。あれがなければ、という悔しい思いはあります。勝ったメジロゴーリキが強かったですね。

―メムロボブサップは幼少時に買い手がつかず自身で馬主として所有しました。牧場時代を振り返って。

竹澤さんここまで強くなるとは誰も思わなかった。馬も小さかったからね。やっぱり、平均すると今の競馬は大型馬の方が向いていて、スピードもあって力もないと通用しない。そんな傾向もあって売れ残ったっていうのもあります。

―強さの秘密はどこにあると思いますか。

竹澤さん阿部武臣騎手が言うには、自分でレースに向けて気持ちを高めていく馬みたいなんです。普段はのほほんとしておとなしいけれど、レースになれば変わる。荷物が８００㎏を超えると10㎏が重く響いてくる。よく頑張っている。頭が下がりますよ。

―走るたびに新たな記録がついて回ります。

竹澤さんグランプリではアサギリが 4 連覇（1991～94年） していますよね。今回勝てば並べます。10歳まで今年を含めて３シーズン、オレノココロが持つ歴代最多重賞25勝の記録に追いつけるよう頑張ってほしいですね。

ばんえいアワード２０２３で最優秀牝馬に輝いたサクラヒメ。ファン投票でも牝馬ではただ１頭のトップ10入りで、昨年６位から２位にジャンプアップした。今季はシーズン初戦のカーネーションカップで重賞６勝目を挙げ、７月のオープン特別を勝ち通算30勝目の節目に到達した。 生まれ故郷の阿寒町野澤牧場は、夫の野澤利男さんが病気で他界した後、妻保子さんが弟の協力を得て生産を続けてきた。その間に産まれたサクラヒメは強く印象に残る１頭だった。「他の馬と違う、人懐っこくて、食べっぷりもいい」と野澤さん。今はばんえい競走馬の生産は行っていない。「お父さんが亡くなった後、丸7年生産を続けました。良い血統の馬を探して育ててきてくれて。それがサクラヒメの誕生につながったのだと思います。すごい活躍をしてくれて。いつもかわいい、かわいいと思って見ています」と、故郷からのエールはあたたかい。

―２０２３年ばんえいアワード最優秀牝馬に輝きました。ばんえいグランプリファン投票では昨年６位から順位を上げ、２番目の票数を集めました。

野澤さんびっくりするくらい、うれいしです。

―今年は７月まで４戦３勝、７月１日の勝利が通算30勝目になりました。

野澤さんすごいですね。いつもかわいい、かわいいと思って見ています。

―牧場時代の印象を教えてください。

野澤さん他の馬もかわいかったけれど、やっぱり一番印象に残る馬でした。母馬は桜子という名前で、だから名前もサクラヒメになった。人懐っこいし食べっぷりもよかったですね。うちには１歳半くらいまでいて他の馬にはない、よいところが目につきましたね。

―競走馬の生産は２０２２年春にやめられたのですね。

野澤さんお父さんが亡くなってから、その後、７年間は続けました。サクラヒメはその間に生まれました。血統のいい馬、売れる馬などを残してくれて、他の馬も共進会に出したら、（審査で）良い評価をいただきました。

―サクラヒメのどういうところが強いと思いますか。

野澤さん自分で分かって走っているんだなっていう感じですよね。やっぱり自分で、もう前へ行きたいという、たたかれなくてもね。

―お孫さんが描いた絵が飾られています。

野澤さん母馬の桜子を描いたんです。孫が中学生の夏休みに描いて入選したんですよ。

―ばんえい馬を生産して良かったことは。

野澤さんサクラヒメのような馬も産まれて、活躍して、それがやっぱり続けてきて良かったなと思います。

―今後のサクラヒメへの期待は。

野澤さんケガをせず病気をしないで、最後まで元気に走って帰ってきてくれることですね。馬主さん（城川悟子さん）は近所にいらっしゃる方なので、楽しみにしています。

アオノブラックは、メムロボブサップと同じ８歳で終生のライバルといえる存在。過去３年のファン投票では２０２１年３位、22、23年２位、そして今年も３位とトップ３に君臨する。今年２月のチャンピオンカップで重賞通算14勝目を挙げ、ライバルを追う。道東標茶町で産まれた。ばんばの生産は当初山口さんと兄が携わっていたが、兄が他界し、山口和子さんと甥の坂井三智さんが引き継いだ。そうして続けた生産も７年ほど前に辞めたが、今もアオノブラック、ゴールドハンター、コマサンエースがオープンで活躍している。山口さんは「アオノブラックは生後14日で母馬が亡くなったんです。その時に、母馬に約束したんです。立派に育ててばんえい競馬で走れるよう頑張るからねって」。約束通り、いやそれ以上に強くたくましい馬に育った。標茶町の空から、兄が、アオノブラックの母ノリノメイチャンが、人馬の頑張りを労いながら見守っているに違いない。

―今年2 月にはチャンピオンカップを勝ち、重賞 14勝目を挙げました。

山口さんよく頑張っているなあという感じですね。夏が苦手な馬なので心配していますが、なんとかメムロボブサップの後ろにくっついていけるように頑張ってほしいなとは思っています。いろいろな方の努力があって今の活躍があると思っています。

―牧場での幼少時はどんな馬でしたか。

山口さんすごく頭のいい仔馬でね。生後14日で母馬ノリノメイチャンが亡くなったんです。その時、（母馬に）約束したんです。頑張って育てるからね、ばんえい競馬で走れるように頑張るからね、って。その言葉を分かっているのかどうか分からないけれど、私を見つけると遠くから走ってミルクを飲みに来て、本当に頭がいい馬だなあと思ってね。私もばんえい競馬に送り出せるように悪戦苦闘してきたんですけれども、今 8 年たって。その時の自分に言いたいなあと。アオノブラック、小さい時は「カンタ」という名前で呼んでいたんですけれど、カンタは一生懸命頑張っているよ。皆さんに応援してもらえる立派なばんばに成長したよ。

―競馬場に会いに行くことはありますか。

山口さん今年３月のばんえい記念に久しぶりに行ったんです。びっくりしたんですが、知らない女性に、アオノブラックの生産者さんですよね、って声をかけられて。マスクをしてニット帽をかぶってマフラーもしていたのに。アオノブラックを応援しているんですって言われて、うれしかったですね。

―ファン投票では同じ生産馬のゴールドハンター14 位、コマサンエース（甥の坂井三智さん生産）も19位に入りました。

山口さん２頭も活躍してくれて、天国の兄も喜んでいると思います。

―今後のアオノブラックへの期待を。

山口さん病気もケガもなく無事に役目を終えて種牡馬になってくれるといいなと思います。応援していただいてる皆さん、本当にありがとうございます。

インビクタは６歳時の岩見沢記念で重賞初制覇、７歳時のばんえい十勝オッズパーク杯で重賞２勝目を挙げ、ここまで地道に力をつけてきた。メムロボブサップ、アオノブラックとともにばんえい界をリードする強力８歳勢の１頭だ。黄金色映える小麦畑が広がる小里農場で育った幼少時代は「普通の馬だった。走ると思っていたら、売らなかったかもしれないよ」と、小里昭男さんは笑って振り返る。目立つ存在ではなかったが、デビュー後は走るたびに力をつけて成績を上げてきた。父馬の名はイッスンボウシで競走時代は実に２９５戦も走り43勝の成績を残した丈夫な馬だった。「配合の相性が良かったんだろうね」という母馬との間に産まれたインビクタも、まだまだ元気な走りを見せてくれるに違いない。小里さんも「残りの競走を頑張って、種馬になって、どういう仔っこが出るか、それが楽しみだね」と期待している。

―６歳時の岩見沢記念で重賞初制覇、７歳でばんえい十勝オッズパーク杯、8歳の今年も勝ち星を挙げています。

小里さん以前と比べるとちょっと力はない感じだけれど、真面目に走っているね。（馬場）水分がもうちょっとあればいいんだけど。水分が少ないと、力のいる馬場をこなす脚がないもんだから、ちょっとね。まあまあかなとは思っています。

―小里農場はばんばの生産と、畑作は小麦がメーンですね。

小里さん小麦畑は広さ60haくらいで、７月25日頃からが収穫時期。息子と孫がやっているんだ。馬は私がやっている。去年までは綿羊も50頭いたけれど全部売った。後継者がいないのはどこも同じで、女満別でばんばを生産しているのも今はうちだけになったね。

―ばんばの生産を始めたのはいつからですか。

小里さん50年以上になるね。昔は農耕馬をやっていた。それをばんばに切り替えてさ。機械も入ったし、もう（農耕用には）用事なくなってから、ばんば馬として生産したわけです。町の祭りで頼まれて、馬車を引っ張ったこともあって、５、６年やったかな。

―ばん馬の生産をしていて、楽しいことはどんことですか。

小里さん自分の馬が走っているのを見るのが楽しみだね。大変なのは管理だね。２、３年前まで女満別に（町営の）牧場があったんです。夏はそこに世話になっていたんだけれど、閉鎖になった。広い放牧地があれば、馬も丈夫になるし、繁殖率もいいんだけどね。

―生産者としての目標、夢はなんでしょう。

小里さんいい仔っこを産んでばんばに出すこと、それを見ることだね。インビクタも残りの競走を頑張って、種馬になって、どういう仔っこが出るか、それが楽しみだね。

キングフェスタは２０２３年度は柏林賞、銀河賞、天馬賞の４歳世代三冠制覇を達成し、年度収得賞金最多、シーズン最多タイの８勝を挙げた。ばんえいアワード２０２３の最優秀４歳馬にも輝き、ばんえいの歴史に名を刻んだ。父カネサブラックは現役時重賞21勝、ばんえい記念、帯広記念など高重量戦に強かった。母クインフェスタはヒロインズカップで重賞タイトルを獲り、繁殖としてもコマサンエースを産んでいる。キングフェスタの武器である第２障害を降りた後の豪脚を、廣部さんは「母親と父親の血統のいい面が出たんだろうね」と言う。江差町の牧場には、キングフェスタの４歳下の半妹が元気に大きく育っている。父コウシュハウンカイに似た栗毛の牝で、「体格も良くて、力もありそう。走ってくれると思うね」と廣部さん。今回のファン投票では５歳馬が半数の5頭がトップ10入りしており、キングフェスタはその大将格としても期待される存在だ。

―ばんえいグランプリファン投票でキングフェスタは昨年と同じ5位に支持されました。活躍ぶりを見ていかがですか。

廣部さんう～ん、ちょっと調子が悪いですね。まあ、これからだと思います。頑張りますのでよろしくお願いします。

―牧場時代から走ると評価をされていた馬でしたが、どんな馬でしたか。

廣部さん馬の形とかさ、抜群だったね。気性的にも、人の言うことを聞いて、気性が荒くても引っ張って歩く人の言うことを聞ける良さがある。馬体は最高だったね。

―第２障害を越えてからの瞬発力がセールスポイントですが、あの凄さはどこからくるものでしょううか。

廣部さんあれはね、母親クインフェスタと父親カネサブラックから受け継いだ血統のいい面が出たものじゃないかな。今、キングフェスタの妹が牧場にいる。１歳で父がコウシュハウンカイ。順調にいけば来年デビューで楽しみにしています。体格が良く、キングフェスタに似ているね。

―ばんばの生産を始めたのはいつごろですか。

廣部さん競走馬として競馬場に送り出すようになったのは30年くらい前だね。１人でやっている。

―ばん馬の生産をする楽しみと、逆に大変さを教えてください。

廣部さん楽しみは走ってくれること。逆に活躍しなかったら大変で、泣けてくるね。金もかかるしね。でもやめられない。いい思いもしているから。勝てなくても、何とも言えない楽しみがあるね。体の続く限り、生産を続けていきたいね。 

ユニークな馬名と、顔の大部分が白く覆われた容姿が特徴のヘッチャラ。実力も折り紙付きで、初重賞制覇となった４歳時のポプラ賞では、マルホンリョウユウほか１世代上の５歳馬を退けての勝利だった。イレネー記念２着、ばんえいダービー２着など早い時期から世代のトップとして活躍を続けている。ちなみに、２歳下の弟ガムシャラも現役で走っている。生まれた年の11月に大きなケガを負ったが、アクシデントも〝へっちゃら〟とばかりに乗り越え、ばんえい競馬デビューを果たした。生産した豊頃町の島崎幸喜さんの牧場は、ばんばの生産を始め50年を超える。２代目の島崎さんは「幼少時代はいたって普通の馬だった」と振り返るが、育ての親も思う以上に強い精神力を持っているのかもしれない。今後も人気＆実力を兼ね備えた競走馬として、ばんえい競馬を盛り上げてくれそうだ。島崎さんも「ばんえい記念に出られるようになってくれればうれしいですね」と期待を寄せる。

―ヘッチャラは一昨年は３歳注目馬、昨年はファン投票７位、今年6位で３年連続の登場になります。

島﨑さん思った以上に活躍してくれて、生産者としてはとてもうれしいです。やっぱり顔が特に特徴あるので、それで人気があるのかなと思っています。

―牧場時代の思い出や印象深かったことはありますか。

島﨑さんいたって普通の馬だったんだけど、当歳の11月に、蹴られたのか、牧場の杭にぶつかったのか知らないけれど、胸のあたりが腫れて毎日バケツ１杯分の水が出て、治療するのに大変だった思い出があります。

―強さの秘密はどこにあると思いますか。

島﨑さん牧場時代を考えればよく分からなくて、たまたま運が良かったのかなとも思うし。競馬場に行ってから、思った以上に評判が良くて、こんなに活躍してくれるとは思いませんでしたね。でも、テンカムソウ（25勝）やミサキスーパー（30勝）の系統なので、どこかで、もしかしたら走るかなという思いもありました。

―母馬のクロカミはどんな馬でしたか。

島﨑さん性格が良くておとなしくて、うちの牧場にいる繁殖のなかで一番扱いやすい馬ですね。

―ばんばの生産はいつ、どんなきっかけで始めましたか。

島﨑さん昔からうちは漁師をやっていて、船を引き上げるために馬を使っていたんです。ばんばの生産は、昭和 50 年くらいから親父がやり始めたのがきっかけですね。

―生産業の楽しみは何でしょうか。

島﨑さんやっぱり走ってくれて、活躍してくれることが一番の喜びです。ヘッチャラも頑張って、ばんえい記念に出てくれるような馬になってくれればと思っています。

母娘で切り盛りする守屋牧場から、グランプリファン投票トップ10に２頭の生産馬がランクインした。種牡馬１頭と繁殖牝馬12頭を飼養し、ばんえいデビューを目指し日々世話にあたっている。強い味方となるのが、弟子屈の町営牧場。展望台が建つ小高い地にあり、放牧地の傾斜は激しい。娘の守屋直美さんは「（馬は）6月の中頃から10月の末までここにいます。こういう環境にいると足腰が強くなるので。自然と子供のうちから心肺機能も精神力も養われます。クリスタルコルドもツガルノヒロイモノも5年前、ここで同じようにいましたから」と話す。人間のほうも苦労は伴う。「馬がいる場所が難れていると。私がこの山をずっと降りていかないといけない。大変ですが、見て、ああ今日は元気だなとか、痛いところ、かゆいところないかなとか。夏なら熱中症なってないかなとか。全部見て。ボーとしている子がいたら、なんでボーとしているのかなとか」と、成長を見守る。

―クリスタルコルドは北斗賞、旭川記念と重賞2連勝中です。早い時期から重賞を勝っていますが、今の活躍についてどう思いますか。

直美さん5歳でこの重賞に挑戦すること自体、とてもびっくりして、経験を積むためにいくのかなとか、いろんな想像をしながら、無事に山を上がってくれて、無事にゴールしてくれて、しんがり負けでも経験かなぐらいにしか思っていなかったので、ものすごくびっくりしました。まさか、と思いました。

弘子さん６月と７月で重賞2連勝して、それでファン投票の人気（中間発表9位から最終7位に浮上）も上がったんだねえ。コルドは3歳の時も重賞を２レース続けて取っているんです。ばんえい大賞典（22年７月）とはまなす賞（８月）。今回と同じ今月、来月っていうふうに。

―重賞の日は応援には行きましたか。

直美さん旭川記念は母を連れて行ってきました。私の友達と3人で。馬の世話は弟に頼みました。応援で声を張り上げ過ぎて、しばらく声がかすれてました。

弘子さん北斗賞の時は馬がまだ町営牧場に移動せず残っていたので、私は馬の世話。娘（直美さん）だけでも行ったらと思いましたが、雨も降るし今日はやめようと。行くのをやめたら、１着にきたんです。

―前年度のばんえいアワード２０２３では最優秀生産者賞にも選ばれました。年間１４３回出走で33勝、勝率23.1％を超える素晴らしい成績でした。

直美さん受賞自体うれしかったのと、勝率が高かったのがびっくりしました。

―クリスタルコルドの幼少時の印象を教えてください。

直美さん生まれた時は特に光るところもなくて、普通の仔馬でした。顔にも特徴ないんですけど、馬自体も特徴なく。まさかばんえいで走るとも思わなかったですし、あんな体になるとは思いもしない。性格もきかないわけでも、おとなしいわけでもなく、本当に普通の仔馬でした。

守屋牧場生産の３頭のスピードフジ産駒が、奇跡に近い確率でレース中に並んでゴールを目指した競ったことがある。２０２１年11月28日第10Ｒ釧路産駒特別。４番クリスタルコルド、５番チャチャクィーン、６番ツガルノヒロイモノが、第2障害をほぼ並んで降りてきた。結果は、クリスタルコルド2着、ツガルノヒロイモノ3着、チャチャクィン８着で、同じ弟子屈町の藤田さんの生産馬ニシキマリンが１着だった。上位２頭にヤングチャンピオンシップの出走権が与えられ、コルドだけが重賞に進むことができた。弘子さんは「競馬場まで応援に行きました。珍しくてびっくりしました」と忘れられない思い出になった。直美さんは日ごろから「父（故博さん）が作ってきた繁殖牝馬の血統とスピードフジの相性が良かった」と好成績の要因を挙げるが、確かにこれ以上相性の良い組み合わせはそうそう見つけられないかも。

―ツガルノヒロイモノはファン投票で昨年10位から今年は８位の支持を集めました。５歳世代は実力も人気もすごい。

直美さんやっぱり、父（故博さん）が長年かけて作ってきた牝馬の血統ですね。繁殖牝馬と、種牡馬スピードフジとの相性がとても良かったことだと思います。

―重賞５勝のクリスタルコルド、23年度年間8勝を挙げたツガルノヒロイモノ、同じ5歳で13勝を挙げているチャチャクイーンもスピードフジの産駒です。

直美さん父が亡くなったのは２０２１年２月。５歳世代のこの子たちはその２、３か月後、能力検査に合格してデビューしました。４頭いて、もう１頭のエーマンスピードはうちで繁殖入りしています。

―３頭が一緒に走ったレースがあるんですね。

弘子さん２歳の時の釧路産駒特別（２０２１年11月28日）に揃って出られたんです。（写真を見て）左端からコルド（４番）、真ん中チャチャ（５番）、右がヒロイモノ（６番）で、一緒に出ることにびっくりして競馬場に見に行ったんです。

直美さん奇跡的に3頭並んで出て。第2障害も並んで降りてきたんです。

弘子さんそれも並んで、番号も離れないで出てきてね。結局、チャチャは８着、コルド2着、ヒロイモノ3着で、1着は同じ弟子屈の藤田さんの生産馬ニシキマリンが１着。上位２頭がヤングチャンピオンシップに出られて、コルドだけが行けた。でも、珍しくてびっくりしましたよ。

―スピードフジは今も元気に過ごしているんですね。

直美さんうちに来て７年目になります。15歳になりました。今の活躍について、周囲の人からは「天国のお父さんが後押ししてくれている」と励まされます。それとスピードフジのおかげです。

中央競馬に同じ名前の活躍馬がいたことでも話題になったヤマカツエース。ばんえいのヤマカツエースも２歳時に重賞ヤングチャンピオンシップを勝ち一線で走っている。生まれ故郷は、檜山地方のせたな町。稲作を営む尾野彰悟さんが60歳を機に憧れていたばんば生産を始めた。馬主として所有した母セタナセンプー、同馬の仔でヤマカツエースのきょうだいにあたる馬にはマタセタナ、セタナコマチなど、せたな町愛が詰まっている。
セタナセンプーは競走時代に13勝を挙げた。「大きな馬で障害で止まったことはなかった。小さい頃のヤマカツエースも元気な馬で、欲目でオープン馬になってくれればと思っていました」（尾野さん）と期待をかけられていた。街は日本海を望める場所にあり、牧場にいる間は海岸まで馬運車で移動し砂浜でソリを曳き、また自宅の水田の周りを曳いて歩き鍛えた。「ばんえい記念に出られるような馬を生産したい」との夢を叶えられるか。

―幼少時代はどんな馬でしたか。

尾野さん元気な馬でしたね。走って暴れていました。ちょっと欲目でオープン馬になってくれればとは思っていたんです。人懐っこいところもあって、ブラッシングをしにいくと寄ってきましたね。重賞を取るまで活躍するとは思っていなかったです。

―母馬セタナセンプーはどんな馬でしたか。きょうだいは。

尾野さん大きな馬で、ばんえいでも障害で一度も止まったことがない馬でした。ヤマカツエースの１歳上の姉は繁殖として戻って来て、マタセタナといいます。馬名はせたな町の昔のキャッチフレーズなんです。１歳下はセタナコマチです。

―ばんばの生産はいつから始めましたか。

尾野さん始めて15年になります。昔から馬には興味があったんですがなかなか忙しくて。 体力的な面も考え 60歳を機に始めました。

―厩舎はほぼ一人で作ったそうですね。

尾野さん引っ越した知人の住宅を馬屋として改造しました。馬房につけた（半円柱の）餌桶は、給湯器のボイラーを半分に切って作りました。馬房の鉄柵も手作りです。

妻留子さん馬を乗せるトラックの荷台の部分も作ったんです。

―牧場時代は海岸でもトレーニングをしていたそうですね。

尾野さんトラックに乗せて海岸まで連れて行ってね。砂浜は足腰が鍛えられる。田んぼをぐるっと回ってくることもありましたね。

―生産者として夢を教えてください

尾野さんオープン馬、ばんえい記念に出られるような強い馬を生産したいですね。

妻留子さん今年産まれたマタセタナの牡の仔にモモタロウと名前を付けたんです。走ってくれるんじゃないかなと期待しているんです。

コウテイは、釧路市の山根福司さんの牧場で産まれた。釧路空港の近くに位置する牧場で同期約15頭と一緒に育った。その顔触れは豪華だ。ヒロインズＣを含め15勝を挙げたフォルテシモ、カーネーションカップを含む18勝を挙げたアーティウィングも同牧場で産まれている。重賞ウイナーとなった２頭は、牝馬の定年である７歳を待たず引退し繁殖生活に入っている。コウテイは、牧場時代は目立たない存在だった。生産業を担当する山根福司さんの弟富造さんは「標準より体が小さく、他にも馬が多くいたので、秋の市場に出したんです」と回顧する。高いとはいえない評価だったが、競馬場に入り大きく成長した。今は１１００㎏を超えるパワーあふれる馬体を誇る。「馬の生産を続けてきて何百頭も見てきていますが、こういうのを化けるというのかな。稀な馬です」。７歳でまだまだ成長が見込める。先に引退した2頭の牝馬に劣らない成績、重賞タイトルをつかみたい。

―７月の旭川記念では２着。重賞タイトルも手の届くところまで力をつけてきました。

山根さんコウテイは生まれた年の10 月に市場で売った馬なんです。標準より小さくて、牧場には他に10 頭くらいいましたので、コウテイともう1頭の２頭を市場に出したんです。それを（オーナーの）足寄の永井和弘さんが目を付け買っていただいた。永井さんが勝ってくれなければ競走馬になれたかどうか。

―同じ世代には期待馬が多くいたそうですね。

山根さんフォルテシモ（通算15勝、ヒロインズＣ）とアーティウィング（通算18勝、カーネーションＣ）という牝馬で良い馬がいました。牧場に残す予定でしたから、それもあって、コウテイらは秋に競りで売ろうということになったんです。

―それが、見違えるほど成長しました。

山根さん今は凄い体ですよね。１１００㎏をゆうに超えている。ああいうのを化けるというのかな。稀な馬です。強みは粘りでしょうか。少々の（馬場の）乾きでも耐えられる。調教が上手にできて力になっているんでしょうね。

―ばんばの生産はいつ頃から、またどういうきっかけで始めましたか。

山根さん祖父の代から。馬での農耕始まった頃から、すぐに父がやっていましたので。馬を飼ってからだと80 年くらいになりますね。

―種牡馬も繋養していますね。

山根さん地全協から貸付でオレノタイショウがいます。以前はシベチャタイガーがいました。素晴らしかったですね。38頭テスト（能力検査）を受けましたが全頭合格しました。活躍馬も多く出てコウテイもその１頭です。

―今後の目標を教えてください。

山根さん肩掛け、重賞を獲ってもらうことが一番で、最終的にはばんえい記念を勝つような馬を生産したいと思います。